あさお慶一郎(前衆議院議員 神奈川4区)

湘南の風

●新生銀行を「国賊」にしたのは誰だ。   平成12年 文藝春秋9月

2003年01月19日 (日)

●新生銀行を「国賊」にしたのは誰だ 平成12年 文藝春秋9月

上向きかけた日本経済に水を差すことになった、そごう問題。
その背景にある-むしろこの背景にこそ問題の根本が潜んでいるのですが-旧日本長期信用 銀行(現新生銀行)の売却にかかわる疑問点について、7月18日の参議院「金融問題及び経済活性化に関する特別委員会」では議論が紛糾しました。

しかしな がら、いまだ開示されるべき情報は何も明らかにされず、疑問に対する合理的な回答もなされないままになっています。

日本経済がいよいよ岐路に立たされた今日、まず第一に問われるべきは、一昨年に破綻した長銀を生き残らせた意図は何だったのか、ということです。

本来、長銀を潰さない、という政府の判断には、長銀が倒れた時に景気に及ぼすダメージを回避する、という考えが根底にあったはずです。

つまり、長銀 破綻によって融資先企業がバタバタと倒産したら、ただでさえ瀕死状態にあった日本経済は致命傷を受ける。
それなら今税金を大量投入して長銀を生まれ変わらせ、しかるべきところに売って、引き続き融資先企業を支えさせるべきだ、という論理です。

私自身は後で述べるようにこの考えには反対なのですが、百歩譲って、考え自体は認めるとしましょう。
しかし、長銀の譲渡先として、金融再生委員会はこともあろうにニュー・LTCB・パートナーズ(以下NLP)という外資系の投資ファンドを選んだ。これがすべての齟齬の始まりでした。

NLPはオランダの法律に基づいて組織され、リップルウッドをはじめ、メロン銀行、GEキャピタル、トラベラーズ、ドイツ銀行、ペインウェーバーなどそうそうたる顔触れが出資者として名を連ねています。
我々はまず、長銀を買ったのが、資本の論理が100パーセント支配する「外資」の、それも「投資 ファンド」だった、ということを頭に入れないといけない。
その理解なくして何の議論も成立しません。

外資といえど、もしもIBMのような事業法人が長銀を買ったのならば、将来的に日本で展開する他のいろいろなビジネスへの影響を考え、買った銀行の 社会的な評価にも一定の配慮をする、といったことがあるかもしれない。
しかしNLPのような投資ファンドの理屈は、とにかく儲かるか儲からないか、の一点に尽きる。
しかもその利益が明日の1億円なのか、それとも10年後の1億円なのかということを厳しく区別し、緻密な計算に基づいた論理を貫きます。日本で は、損して得取れ、という考え方がありますが、彼らの頭には今、得することしかない。「資本の理論」といえば格好はいいですが、先に得をして、あとで損をしそうになったら、その前にさっさと逃げればいいと思っているのです。
そのために日本経済がおかしくなるようなことがあっても、彼らにとっては知ったこと ではありません。

実際、今回の「新生銀行ショック」の嚆矢となった信販会社大手・ライフの倒産でも、新生銀行はメインバンクとして、自ら倒産の引き金を引いている。 「瑕疵担保特約」によって自分たちの債権はしっかりと保全した上で、会社更生法が適用されるや、身ぎれいになったライフを安く買収しようという動きを見せています。
これは日本人が一般にメインバンクにもつイメージからすれば、到底、納得のできないやり方です。屍肉をむさぼるハイエナ、といわれてもしようがない。

長銀が特別公的管理下にあった昨年3月、当時の柳沢伯夫・金融再生委員長は、「(長銀を)外資系に買ってもらい、日本の金融システムに刺激を与える 存在になってもらうのもいい」と語っています。
なるほど新生銀行は充分すぎる刺激を日本に持ち込んでくれました。しかしショックを与えればいい、というだけで彼らに売ったのだとすれば、それはとんだ見込み違い、なんとも間の抜けたお人好しだったと断ずるほかはないのです。


<倒産は「ホームラン」>
7月26日、大手百貨店そごうに対し民事再生法による再生手続き開始の決定が下され、そごうは事実上倒産しました。
そごうをめぐるドタバタは4月6 日、取引銀行73行に対する総額6,390億円もの債権放棄の要請に始まり、その後の方針が二転三転し、最終的に亀井静香・自民党政調会長の暗躍により債 権放棄要請を取り下げ、民事再生法の適用申請ということになった。

この一連の騒動の中で特にクローズアップされたのが、今年2月の長銀売却の際、売り主である預金保険機構、買い主であるNLPの間で交わされた契約書に盛り込まれた、「瑕疵担保特約」です。今ではこの言葉が新聞に載らない日はありません。

長銀から引き継いだ融資先企業が債権不能、倒産などということになると、当然債権の価値は下がる。その際、損失が2割未満であれば新生銀行がかぶる が、2割以上の場合、新生銀行はその債権を預金保険機構に買い取らせることができる。
これが瑕疵担保特約の概要です。
会社が傾いて債権の損失が2割未満、というのは通常考えにくいので、これは事実上、融資先に何か問題が起これば、国が新生銀行の損失を補填しましょう、という契約に他ならない。

瑕疵担保特約は譲渡後3年間の期限つきではありますが、まさにこの特約こそが、ライフ、第一ホテル、そしてそごうと、融資先を次々に倒産に追いやっ た新生銀行の行動原理の源なのです。
つまり新生銀行にとっては、そごうが倒産してくれたほうが都合がいい。国が100パーセント肩代わりしてくれるので、 債権を回収する手間も省けるし、融資したお金も確実に戻ってくる。濡れ手に粟、いいことずくめなのです。
現在、債権放棄を要請して再建を図りたい企業がゼネコン、流通などを中心に連なっていますが、新生銀行が他行と足並みをそろえず、独り要請にそっぽを向いている理由もまさにここにあります。

実際、新生銀 行の外国人行員たちは、融資先の倒産を「ホームラン」と称しているという。
ここに彼らの本音があるのです。


<引当金という名の持参金>
私は本来、政府が介入するM&A(企業の合併・買収)の契約においては、契約後の損失を売り主と買い主が分担する「ロスシェアリング」という考え方に基づくべきだと考えています。

将来発生する損失について、瑕疵担保特約では売り主である国が一方的に補填しますが、ロスシェアリングでは買い主もその負担を一部負う。当然、売り 主、買い主の双方が損失を抑えるように努力することになります。
本来、このように両者の指向するベクトルを一致させることこそ正しい契約というものではありませんか。

私は昨年来、国会をはじめいろいろな場で、このロスシェアリングの考え方を導入することを強く提案してきました。しかし今日まで受け入れられ ることはなかった。 その結果、現在のような、銀行が融資先の倒産を喜ぶなどという、それこそモラルハザードの最たるものをもたらしたのです。

私は昨年7月の特別委員会で、当時の柳沢伯夫・金融再生委員長にロスシェアリングに対する認識を質しています。 柳沢委員長の答弁は「金融再生法にお いては、再生委員会による資産判定に依拠する」というものだった。 これは平たくいうと、金融再生法の下のM&Aでは、問題のある債権は整理回収機 構が引き取るから、危ない融資先を買い手企業が引き継ぐことはない。よってロスそのものも発生しない、ということです。しかしそうであるならば、なぜ、そごうや第一ホテルは倒産してしまったのか。あれは健全な債権だったのでしょうか。 長銀が新生銀行に引き継がれるわずかの間に、健全な企業の経営が悪化して、危ない企業になってしまったのでしょうか。ここに今回の問題を引き起こした重大な欺瞞があるのです。

その欺瞞を如実に示しているのが新生銀行の「貸倒引当金」の金額です(下表参照)。

旧長銀の貸倒引当金

平成11年3月平成12年2月増額 一般貸倒引当金4,137億円 (うち そごうグループ188億円)3,118億円-1,019億円 個別貸倒引当金1,223億円5,899億円 (うち そごうグループ1012億円)+4,676億円 合計#5,465億円9,028億円+3,563億円

# 「一般」+「個別」との差額は特定海外債権引当勘定 貸倒引当金とは、債権が焦げついて損失を被るリスクを回避するために、銀行が積み立てるお金です。当然、リスクの高い債権ほど引当金の額も大きくな る。長銀は昨年3月、金融再生委員会が行った資産判定に基づいて、5,465億円の引当金をつんでいます。ところが、NLPに譲渡される直前の今年2月に なると、引当金はいつのまにか9,028億円にまで引き上げられています。これはもちろん、税金から出た金です。

その中身を見ていくと、注目すべきは「個別貸倒引当金」の項目です。個別貸倒引当金というのは、破綻が懸念される、あるいは実質的に破綻している債 権に対して積む引当金です。この個別貸倒引当金が1年たらずの間に、1,223億円から5,899億円と、5倍弱になっている。そのうち、そごうグループ への引当金だけ見ても、一般貸倒引当金188億円から個別貸倒引当金1,012億円へと激増しています。

これはどういうことを意味するのか。当初の資産判定で「適当」とされた債権がどんどん劣化し、引当金を積み増ししていかなければならない状況に陥っ たということでしょうか。しかし、昨年度日本は経済成長率0.5%を記録し、資産がこれほど劣化する要因はありません。つまり、最初の資産判定自体がまや かしだったのです。危ない債権をも、初め健全な債権にカウントしていた。しかしそれでは新生銀行が納得しないので、譲渡前に引当金を積み増しして、ようや く引き取ってもらった。引当金は新生銀行に引き取ってもらうための持参金代わりではなかったのか。

金融再生法には、預金保険機構は金融再生委員会に対し資産判定の請求をすることができる、とされています。なぜ預金保険機構は、再生委に資産判定の やり直しを要求しなかったのでしょうか。預金保険機構の松田昇理事長は私のこの疑問に対し、「1回は判定する義務がある」と回答しました。1回はちゃんと やったんだからそれでもいいだろう、という完全に開き直った態度です。 実は私は、再生委が資産判定を甘くして、譲渡直前に引当金を積み増すつもりではないだろうか、という懸念を当初から抱いていました。前述した昨年7月の特別委員会で、次のように柳沢金融再生委員長に何度も念を押しています。

「理論的にはきれいな債権しか残っていない。ですから、そこを買っていただく方に過分な金額をつけることはないんでしょうね。」

これについては、柳沢委員長はイエスともノーともつかない玉虫色の答弁に終始しました。

また、「資産査定のときからもし悪化して多くの引当金を仮に積まなければならなくなったとすれば、その理由をその段階では個別のそのときは適とされた企業がなぜ悪くなったのかということを含めて明らかにしていただきたい」 と迫ると、柳沢委員長は「当然のことと心得ております」と、実に明快に答えました。

今年2月現在の個別貸倒引当金、5,899億円のうちそごうグループ分の1,012億円を差し引くと、残りは4,887億円です。この引当金はどの 融資先企業に対して積まれたのか、右の柳沢さんの答弁にもかかわらず、いまだ明らかにされていません。柳沢さんは結果的にウソをついたことになる。

結局、本来なら整理回収機構送りになるはずの債権を大丈夫だと強弁し、問題を先送りしようとする体質こそが税金の大量投入を招いた。こういうまやか しを最初から意図してやろうとしたのか、それとも当初は本当に大丈夫だと思ったものがたまたま悪くなってしまったのか、それはわかりません。わかりません が、故意であったと思われても仕方がないし、判断を誤ったのだとすれば重大な過失です。

ここから先は政治哲学、つまりソフトランディングかハードランディングか、という議論に通ずるのですが、日本の景気が90年代ずっと低迷し続けた元凶は、まさにこの「先送り体質」にこそあったのだと私は思うのです。

たとえ話ですが、江戸時代の火消したちは火事が出たら延焼しないよう、思い切って周りの家を全部取り壊した。そうして大火を防いできたわけです。と ころが今の政府のやり方というのは、徹底した消火活動をせず、くすぶったまま残してしまう。だから風が吹けばまた燃え広がるのです。ましてやマーケットは 火に油を注ぐ面がある。つまり不信感があると、噂が噂を呼び、大火の引き金を引く。そうさせないために、一度徹底的に処理し尽くさなければならないのです。

こう言うと、例えばそごうが破綻したことで、中小零細の取引先が被害を受けている、かわいそうだという議論が出てきます。しかし、あらゆる問題企業 を救済していたら、いったい税金がいくらあったら足りるのでしょうか。私は救済という名の先送りよりは、潰すべき企業は潰して悪い膿を出し切ったほうが、 結果としてもっと強い日本経済が生まれると考えています。 ただし、この考え方を独善的に正しいと思っているわけではありません。大事なことはそういう議論を政治の現場が国民の目の前で行うことです。しかし 問題企業であったそごうを、健全企業であると偽って、新生銀行に引き継がせるようなごまかしを続けていたのでは、そういった議論がなされない。国民には事 実が知らされず、いつのまにか引当金という名の持参金が積み増しされるようなことが行われているのです。

<ゴールドマン・サックスの罪> もうひとつ、重大な問題を指摘しておきたい。 それは瑕疵担保特約をつけているのに更に引当金を積む必要があったのか、ということです。

つまり瑕疵担保特約があるということは3年間は何があっても国が保証する、ということに他ならないわけですから、本来、その間の引当金は必要ありません。 別のオプションを盛り込むにしても、瑕疵担保特約などという複雑なものでなく、例えば3年間、債権に政府保証をつけてしまえばそれでいい話です。 今は引当金ゼロで、3年後に残った債権だけに当初必要だった引当金を出してあげれば、税金の負担ははるかに少なくてすんだはずです。

この点は、7月に開かれた特別委員会で、新生銀行の八城政基社長にも質したところです。

「すべての引当金について、3年後に新たに引当金が積まれればまったく問題ないという理解でいいわけだと思うんです」

八城社長は、「理屈の上ではそうですが、その…」と、私の議論がまさに「理屈」にかなったものであることをはからずも認めている。

私はなぜこの点に拘泥するのか。そごうは今回倒れましたが、仮に立ち直って、新生銀行への債務2,000億円を100パーセント返済したとします。 すると、まずもちろん新生銀行に2,000億円まるまる入る。その場合、1,012億円の引当金はどうなるのか。実はこれは国庫に戻されることはなく、新 生銀行の特別利益として計上されるのです。国民の税金であがなった引当金が、新生銀行へのビッグな特別ボーナスに化ける。これがあの愚かしい契約の意味す るところなのです。

なぜこのような馬鹿げた事態になってしまったのか。金融再生委員会、なかんずく初代委員長の柳沢伯夫氏の罪は重いと言えます。 もしも、再生委のメンバーがM&Aの素人だとするならば、彼らが正式にアドバイザーとして迎えていたゴールドマン・サックス社の責任も重大 です。ゴールドマンの役割は、長銀の受け皿になる候補先と売却条件を詰めていき、契約をまとめることでした。彼らはプロですから、瑕疵担保特約についても 引当金についても、その裏に隠されたからくりについても当然、熟知していたはずです。売り主たる再生委のアドバイザーなのだから、こんなに一方的に買い主 に有利な契約を看過するなど論外でしょう。

NLPから新生銀行の非常勤取締役に就任したクリストファー・フラワーズ氏が、2年前まではゴールドマンに役員として在籍していたという事実も不可 解です。やはりゴールドマンはNLP寄りで契約交渉を進めたのではないか、NLPとの間に密約があったのではないかと勘ぐられてもしかたがない。

どのような経緯でゴールドマンをアドバイザーに選んだのか、その選考過程を再生委はまったく明らかにしていません。また、ゴールドマンとの間に交わ された契約内容や、いくらでアドバイザリー契約を結んだのか、といったことについて情報を公開せよ、という私たちの要求に対し、国家公務員法上の「守秘義 務」を楯に拒み続けています。

ゴールドマンが職務上知り得た長銀の財務情報なりを開示してはいけない、という条項は契約自体の中に含まれているでしょうし、含まれるべきです。し かし、雇い主の政府がアドバイザーであるゴールドマンに具体的にどのようなことをどのような条件で依頼したか、を開示してはいけないということはあり得な いのです。それに開示されて困るようなこともあるはずがありません。ましてや莫大な税金が投入された今回の長銀譲渡に際して、ゴールドマンがいかなる役割 を果たしたかを知るのは、国民にとって当然の権利ではありませんか。

実はゴールドマンが契約の公開を拒んでいるのは、再生委が拒んでいるからではないかと思えるふしもあります。 長銀と同じく一時国有化されてた日債銀について、再生委は譲渡のアドバイザーとしてモルガン・スタンレー社を雇いました。私は友人を通じてモルガン の東京支店長、テリー・ポルテ氏から、我が社はいつでも日債銀についての契約を公開する用意がある、とのメッセージをもらったのです。 私はポルテ氏にも直 接電話で確認した上、再生委に、モルガンとのアドバイザリー契約を公開してほしい、と迫りました。

ところが再生委の返答は、「こちらでポルテ氏に確認したら、たしかに浅尾氏にはそう言ったが、いつとは言っていない、という答えだった」と木で鼻を くくったようなものでした。おそらく再生委がモルガンにそういう返答をさせたのでしょう。モルガンとの契約内容が公開されれば、次はゴールドマンとなる。 それを再生委は恐れたのでしょう。

新生銀行とフラワーズ氏、そしてリップルウッド社の最高首脳で同じく新生銀行の非常勤取締役を務めるティモシー・コリンズ氏をめぐっては、もう1つ 看過できない問題があります。新生銀行はフラワーズ氏とコリンズ氏がそれぞれ実質的に経営するコンサルタント会社に対して、来年3月までに、何と総額57 億円余の巨額報酬を支払うことになっているのです。 その内訳をみると、すでに今年の3月末までに、フラワーズ氏が議決権をもつJCFマネジメントLLC と、コリンズ氏が議決権をもつリップルウッド・ホールディングスマネジメントLLCに11億1千万円ずつが支払われた。 さらにNLPの親会社にも26億9 千万円が支払われている。加えてフラワーズ、コリンズ両氏に顧問料の名目で来年3月までに、4億1千万円ずつが支払われる予定だという。新生銀行は「当行 への貢献に対する正当な対価」と言っているようですが、多額の税金を投じた日本国民としては到底納得できるものではありません。

金融再生委員会は優先株を取得して再建の手助けをしている民間金融機関に対し、経営健全化計画の提出を求めています。当然新生銀行もその義務を負う ことになる。これに基づいて、再生委は新生銀行に対し、フラワーズ、コリンズ両氏への巨額報酬が適正なものであったか、断固説明を求めるべきです。これほ ど日本国民を愚弄した話はありません。

NLPは確かにしたたかです。シティバンクの元日本代表として知られる八城政基氏を社長に据え、今井敬・経団連会長や樋口廣太郎・アサヒビール名誉 会長といった財界の重鎮を社外取締役に迎えた。おそらく、外資に対するアレルギーを中和させる役割を期待し、彼らを口説いたんだと思います。

実際のところ、今井さんや樋口さんは、新生銀行は他の銀行と歩調をあわせて債権放棄に応じるべきだった、と思っているはずです。しかし今井さんや樋 口さんがそれをいくら声を大にして訴えても、「株を持っているのは誰だと思っているんだ」と言われたら口をつぐむしかない。八城さんだって「誰に社長にし てもらったんだ」と言われれば黙ってしまうでしょう。

<2枚の交渉カード> 繰り返しますが、NLPは新生銀行の経営を長期的スパンでとらえてはいない。瑕疵担保特約が切れるまでの3年間にどれだけ儲け、その上で新生銀行を どれだけ高く売るか、という考えだけで動いているはずです。実際、彼らが3年間で元を取ろうとすれば、何だってできるのです。彼らの新生銀行に対する投資 金額は1,210億円ですが、これも株の配当率を10割にしてしまえば、あっという間に回収できる。これは法律上は可能です。 たとえそこまでしなくても、 次々と融資先企業を潰していって、瑕疵担保特約をフル活用させ、危ない債権を国に買い取らせていけば、利益はどんどん出るのです。

今、こういう新生銀行の手法を嫌い、融資先は新生銀行からどんどん離れているという。また、行員たちも優秀な人から辞め、日常の現金事故さえ多く なっている、とも聞きます。新生銀行は危ない融資先をどんどん潰してしまい、バランスシートだけは抜群によくなっていくかもしれません。しかし、優良融資 先は逃げ出し、優秀な行員もいないというのでは、本来の銀行業務で収益を上げるような力は到底持てないでしょう。 たとえ日本で本腰を据え、銀行業務をやっ ていこうと思ってもできない状態なのではないか。

事ここに及んで、さすがに政治家の間にも新生銀行にいいように振り回される現状をなんとか打開できないか、という声が巻き起こっています。与野党を 問わず、瑕疵担保特約の見直しを検討するべきだ、という趣旨の発言が相次いでいる。しかし、ただ「見直せ」といったところで、資本の論理の権化のような相 手には何ら説得力を持たない。「だって契約したでしょう」で話は終わりです。 かといって一国の政府が契約を一方的に反故にするなど、まるでかつての中国です。

私は、今さら契約の見直しなど考えるべきではないと思う。しかしそれよりも、税金の負担を小さくするために、新生銀行に対して提示できるオプションが2つあります。

ひとつは、先程も述べましたが政府保証をつけるから引当金を返してほしい、と要求すること。新生銀行がこれを断る理由は、少なくとも 表面上は、ない。実際には引当金による運営益が得られなくなるので彼らは損するのですが、そこで「あなたたちはそこまで金儲けにうるさいのか」と質問した時、彼らに「うん」と答える勇気があるかどうかです。これが実現すれば、多少は税金の負担が軽くなる。

もうひとつは、個別貸倒引当金がついている危ない債権については、最初から国が買い取ってしまうという手です。 これなら引当金というボーナスが新生銀行に渡ることはなくなる。新生銀行が呑むかどうか、難しいところですが。 瑕疵担保特約自体を見直そう、という交渉は、政府がどうしてもやるというのなら、していただいて結構だと思いますが,こればかりは亀井さんのような 強腕をもってしてもうんと言わせられるとは思えない。ただ、今挙げた2つのオプションは交渉のカードとして使える。これを断るなら断る理由を彼らは出して くるはずです。そうした時、また新たな交渉の余地が生まれるのだと思います。 不良債権の処理の遅れ、問題の先送り体質こそが「失われた90年代」の根本的な原因だと思われますから、苦しくても思い切って膿を出す政策をとるべきだったのです。 大手術によって不良債権の呪縛から日本の金融システムを解放することが、本来、金融再生法の求めていたことです。

そうすれば長銀を支えた4兆円は、あるいは仮にその金額がそれ以上に増えたとしても生きたお金、明日の日本を支えるお金になったのです。今、瑕疵担保特約のもと新生銀行に費やされているお金は、明らかに死に金です。

私はこの問題を考えるたび、やり場のない怒りと政治家としての自責の念に震えます。今、日本は世界の笑いものになっている。新生銀行はこのままでは税金で生かされておきながら税金で肥え太る「国賊」と堕してしまう。

この秋には日債銀の譲渡が控えています。先日の、久世公堯・金融再生委員長の三菱信託銀行からの利益提供をめぐる辞任騒動が示すように、政治家と銀 行とのもたれ合いが続くようでは、同じことが繰り返されるのは目に見えている。第二の国賊を生み出さないためにも、我々は今、出し得る知恵を総動員し、痛 みを伴う政策でも、未来のために勇気をもって打ち出していかなければならないのです。

湘南の風 あさお慶一郎の日記

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